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陣ヶ下渓谷[22/100]

横浜市を通る環状2号線の高架の下の渓谷。
横浜市唯一の渓谷。
それが陣ヶ下渓谷です。

横浜の街の中にあるということがまるで嘘のような。
自分のいつも通っている道のすぐ近くにあるというのがまるで嘘のような。
緑の森につつまれて、澄んだ水のせせらぎの音が響いている。
そんな"異界"のような場所がこの陣ヶ下渓谷です。

もちろん、こんな街中にこんな自然が残っているというのは大きな驚きで、それだけで感動的ではあるのですが、この場所のすごいところは「自然が残されている」という部分だけではなかったのです。

陣ヶ下渓谷[22/100]_d0012080_22175678.jpg

この渓谷の一部は環状2号線の高架の真下にあるのですが。
その高架のデザインがなんとも素敵なのです。

陣ヶ下渓谷[22/100]_d0012080_2219344.jpg木と馴染むように曲線で出来た橋脚で。
高架自体の底が曲線を描いていて、その曲線と橋脚が自然になめらかな曲線を描いてつながっています。
それはどこかきのこを思わせるようであるし、垂直に伸びる杉の姿を模したもののようにも思えて。

実はこの高架、土木学会デザイン賞で最優秀賞に選ばれているのだとか。
そんな予備知識があったので、実際に見てすごいと思っただけなのかもしれないけれど…
それでもやっぱり、この景色は美しいと思うのでした。

森の中に垂直に伸びる白い柱。
何本も伸びる白い柱。
それはなんだか古代の神殿のようで。
まるで神話の世界に、もしくは見ることのない未来の世界に来てしまったかのように思える、他の場所では見ることの出来ない不思議で、神秘にすら思える世界。

高架は2本に分かれていて、その隙間を杉の木が伸びています。
実はこの隙間にある杉はちょっと日照不足なのか、下のほうの葉が少なくなってしまってかわいそうでもあったのですが。
でも、この杉たちがより高架との一体感を生んでいて良いと思いました。

陣ヶ下渓谷[22/100]_d0012080_2229201.jpg

橋脚の下の方にはツタの絡み始めているものもありました。
あと10年、20年後、ひょっとすると、この橋脚が遥か昔からあったものであるかのように緑に包まれる日が来るのかもしれません。
それがいいのか悪いのかは分かりませんが、そんな陣ヶ下渓谷の姿も見てみたい気がします。

陣ヶ下渓谷[22/100]_d0012080_22322360.jpgこの写真は渓谷を出てすぐのところにある公園を写したものです。
これを見ると、渓谷内の橋脚がいかに力を入れて作られたものかがわかると思います。

どこかの田舎であれば、「自然を破壊するな」「自然を残そう」「自然を守ろう」と主張し続けることもできるかもしれませんが、都市にある横浜のような場所ではそれは難しいことだと思います。
そういった中で、この陣ヶ下渓谷の高架のように、積極的に自然との調和を考えるという考え方は見習っていかなければならないと思うのです。
「自然は守りたい、でも、開発を止めることはできない」
そういったときに、最善の方法は何か、良い環境を守るにはどうすればいいのかを考えていくことが必要だと思うのです。
これは、わたしがよく考えている「無思考な懐古主義に陥りたくない」という思いの延長線上にある考え方だと思うわけですが。

まぁ、難しいことは置いておくとしても。

純粋に美しい場所として感動し、そして色々なことを考えさせてくれた陣ヶ下渓谷。
自分のすぐ近くにあるとはいえ、偶然が重ならなければ尋ねることもなかったと思うので、そんな偶然に感謝したいと思いました。


陣ヶ下渓谷(地図
相鉄線西谷駅または上星川駅より徒歩

参考:横浜市環境創造局 陣ヶ下渓谷公園
# by 100scenes | 2006-12-06 22:49 | 横浜

豪徳寺[21/100]

どんな人でも、日本人なら招き猫を見たことがないなんて言う人はどこにもいないはず。
そんな日本人から愛されている招き猫発祥の地と呼ばれているのが豪徳寺です。

『彦根藩主井伊直孝が猫に手招かれるままに寺を訪れたのをきっかけに、その寺を菩提所とし、没落していた寺が復興した』という伝説によって、この豪徳寺は招き猫発祥の地と呼ばれているそうで…。

そもそも何故招き猫発祥の地、豪徳寺に興味を持ったのかと言えば、きっかけは京極夏彦の「百器徒然袋―風」でした。
その本の中の五徳猫というお話にこの豪徳寺が出てきて、本当にそんなお寺があるのか!?あるんだったらこれは行くしかない!と思い、実際に訪れてみた訳です。

わたしが色々な場所に行こうと思うきっかけはいろいろとありますが、小説がそのきっかけとなっていることはとてもよくあります。
実際にあるものを参考にして小説は書かれているわけですから、それを読んでその場所に行って、すごい!本当にあった!と言うのは少々間抜けな感じもしますが…
(地図を見ながら街を歩いて、地図と同じだ!と喜ぶのと同じような感覚ですね)
自分の好きな本に出てくる場所に行って、自分の目で確かめて、その話を思い出したりするというのはすごく楽しくて、そしてなんとも感動的なことだと思います。
最初はただその小説が好きだという気持ちしかなかったのに、実際に行ってみることで、その作品を離れて、その場所自体がわたしにとっての大切な場所になるというのはとても素敵なことだと思います。

そんな場所のひとつが、この豪徳寺です。

豪徳寺[21/100]_d0012080_23344379.jpgはじめは、とにかく「招き猫発祥の地!」「招き猫がいっぱいあるらしい!」と思いながら目指した訳ですが、実のところ、本当に存在しているのか半信半疑でした。
しかし、実際に行ってみると、小田急線の豪徳寺駅で降り、豪徳寺へ向かう途中の商店街は興奮の連続。
だって、どのお店にも招き猫がいるんですよ!
写真は銀行の前に並べられた招き猫です。
しかも、この招き猫、その小説、「風」に載っている写真のものと同じなんですよね。
お店によっては違う種類の招き猫を置いているところもありましたし、いろんな種類の招き猫を売っているお店もあり、兎にも角にも、招き猫だらけなのです。
さすがは発祥の地。気合の入り方が違います。

しばらく歩くと、商店街を抜けて、住宅地になってしまったので、またまた本当に豪徳寺はあるのか?と不安になってしまったのですが…ちゃんとありましたよ。豪徳寺。

せっかくここまで来たんだから、招き猫が売っていたら買おう!と意気込んで来たので、本当に売っていて感動しました。
大から小までいろんな大きさの招き猫が売って…
わたしは2番目に小さい500円のを買いました。
お手ごろ価格ですよね。
可愛くてとてもお気に入りです。
ちょっとふてぶてしい感じの表情がまた可愛いのです。

しかし、招き猫は手に入れたものの、なかなか「風」の写真で見た、大量の招き猫は見つけられず、ふらふら歩いたり小説を読み直したりしました。
(お寺の敷地内で、そのお寺が出てくる話を読むというのはなかなか恥ずかしい感じでしたが…)
確かにいろんなところで招き猫は見つけられるんだけど、あの大群が見たいんだよ!わたしは!
と思っていたところ、とうとう出会えたのです、招き猫の大群に。

豪徳寺[21/100]_d0012080_2335749.jpgそれはもう数えようとも思わないほどの数でした。
人の身長ほどの棚に招き猫が敷き詰められていました。
案外その棚自体は地味だったのですが、猫の数で言えばすごい数だったと思います。
その棚があった場所にある建物が招福観音堂で、棚は猫塚と呼ぶそうです。
これだけ並ぶとなんだか怖いような気持ち悪いような感じもしますね。

豪徳寺[21/100]_d0012080_2334569.jpg豪徳寺は絵馬も全部招き猫で、しかもみんな同じ顔。
猫の供養塔(多分井伊直孝を招いた猫のものだと思うけど違うかも…)もあります。
この供養塔も小説に出ていたので一生懸命探しました。
地味でなかなか分かりにくい場所にありましたが、結果的には見つけられてよかったです。

この記事を書くために色々とネットで見ていたところ、招き猫の発祥の地が豪徳寺であるというのは、結果的にはあまり信憑性がない話らしいです。
ただの招き猫がいっぱいあって、招き猫を売っている寺というだけかもしれないけれど…
それでも、同じ顔をした猫の大群が迎えてくれるこの不思議なお寺がわたしはなんだかとても好きです。
招き猫で溢れる商店街も、帰り道に再び通ると、街の人たちの地元への愛情が感じられるようでなんだか嬉しくなりました。


豪徳寺(地図
小田急線豪徳寺駅より徒歩

参考:招猫倶楽部(http://homepage1.nifty.com/manekinekoclub/
# by 100scenes | 2006-12-02 00:25 | 東京

失われゆく景色

このブログで紹介する景色も20という区切りを迎えたところで少々閑話休題。

先日、この百景で紹介している「運河と船のある風景」「東高島駅」「瑞穂橋」がある東神奈川駅(どちらかというと仲木戸?)周辺の地域に久しぶりに遊びに行ってみました。
去年の9月に行って以来なので一年ぶり以上ですね。

この周辺の地域には以前から横浜駅東口から徒歩で行っていたのですが、最近は東口にベイクウォーターが出来たりして。
よりポートサイド地区やこの東神奈川駅周辺へのアクセスも距離は変わらずとも気分的には楽になったのではないかと思います。

しかし、久々に行ってみると、1年前とは明らかに変わってしまったたくさんの風景に驚かずにはいられませんでした。

まず、ポートサイド公園から見えるみなとみらい地区の景色が全然違いました。
以前は、ポートサイド公園というのはクイーンズスクエアやランドマークタワーなどなど、いかにもみなとみらい!という景色が見れる隠れスポットみたいな雰囲気だったのですが、今はみなとみらい地区(というより新高島駅周辺?)の新築や建設中の高層マンションが見えるばかり。
わたしの大好きな貨物線はまだ健在ですが、線路の近くには変なフットサルコートみたいなのも出来ていて(横浜みなとみらいスポーツパークとか言うらしい)。
なんだか向こう岸にサッカーをする人たちを見るというのは間抜けな感じがするなぁと思いました。

失われゆく景色_d0012080_22194360.jpgさらにポートサイド公園を越えて歩いていくと、写真の水辺の工場にたどりつくのですが。
昔は写真のように素敵な景色だったのに、いつのまにか、運河の向こうには高層マンションが建っていて。
久しぶりに写真でも撮ろうかと思ってわざわざこんな遠くまで足を運んだのに、写真を撮ろうという気にもなれず。
なんだかわたしの大切なものが奪われてしまったようで悲しくなってしまいました。

失われゆく景色_d0012080_22193366.jpgこのブログでも紹介した「運河と船のある風景」も全然雰囲気が変わっていました。
昔はこの写真のように怪しげな船(?)が沈んでたり、管理されていないだろう船がいくつも浮かんでいたり、何故かぼろぼろの船には人が乗っていたりと、なんとも不思議で魅力的な場所だったのですが。
今では浮かんでいるのは小奇麗な船が一艘。
運河の横の歩道や柵はこんな場所に不釣合いなんじゃない?と思うくらい綺麗に舗装されていて。
本当にここって前と同じ場所なの?と、もはや浦島太郎状態でした。
そりゃあ、汚い不法に泊められている船なんてなくて、綺麗に整備されている方が良い環境といえるかもしれないけれど。
あの場所が好きだったわたしの気持ちはどうしたらいいのだろう。と本当に切ない、やるせない気持ちになってしまいました。

で、そのまままっすぐ海のほうに向かって歩いていったのですが。
なんと、驚いたことに、コンビニがあったんです。
行ったことのある人は分かると思いますが、あんな場所にコンビニがあるなんてまず考えられなかったんですよ。一年前までは。
近寄ってみると、なるほどそりゃあコンビニも出来るねと納得してしまいました。
その海に程近い場所には横浜コットンハーバーという大規模な高層住宅街ができていたのです。
まだ出来たばかりで、工事中の棟もありましたが、もう入居も始まっているようで。
今まで何もなかった場所にひとつの街が出来てしまうという事実になんだか唖然としてしまいました。
まだ完成していませんが、将来海側にウッドデッキなんかが出来るようなので、それはそれで瑞穂埠頭とかが眺められるかもしれないので完成したら行きたいとは思うのですが。
やっぱりなんだかわたしの大好きな景色が失われてしまったのはこの街のせいなのだと思うとなんとも言えず悲しい気持ちになりました。


何かを新しく作ったり、もしくは壊したりするということは、いつでも誰かの悲しくやるせない気持ちを内包しているものなのではないか?と思います。
開発の影には、いつだって密かに大切だと思っていたものを壊される人がいるんだと考えてみると、世の中が何も変わらずにそのままであればいいのにと思いました。
当然そんなことが無理だというのは分かっているのだけれど。


そう、考えてみれば、大好きな景色が生まれるスピードよりも失われるスピードの方が圧倒的に速いんですね。

だからこそ、少しでもアンテナを張り巡らせて、わたしはわたしの好きな場所を発見し続けたいと強く思いました。
# by 100scenes | 2006-11-16 23:07 | 閑話休題

平沼駅跡[20/100]

平沼駅跡[20/100]_d0012080_0301793.jpgそれは高校3年生のときのことだったと思います。
図書館で借りた「東京再発見―土木遺産は語る」(伊東 孝 / 岩波新書)という本を読んだ後のことでした。
この本というのは、東京の街のさまざまな場所に残る土木遺産について書かれている本でとても面白い本なのですが、これを読んだわたしは、ある場所でふいに「?」と思ったのです。
そのある場所というのが平沼駅跡なのでした。

と書いてもなんのことだか分かりませんね。
なので詳しく説明してみましょう。

ふらふらと散歩を好きだった高校生のわたしは、相鉄線の平沼橋駅(横浜駅東口から出て暫く歩いたあたりですね)のあたりを歩いていて、写真のようなレンガの装飾が剥がれた場所を見つけました。
ここは電車の線路の橋脚。
その橋脚の構造材がレンガなのならば分かります。
でも、あくまでそのレンガはただの装飾で貼り付けてあるだけなのです。

もし、この場所が装飾する必要があるほど何か重要な場所ならば問題はなかったのです。
しかし、ここは本当になんでもない、横浜駅から少し離れた場所の京急線の橋脚なのです。

ということは、今は重要でなくても、昔は重要だったということなのでは?と、「東京再発見」を読んだわたしは閃きました。
ここに何かあったに違いない!と。

平沼駅跡[20/100]_d0012080_0304072.jpgそこで家に帰ってネットで調べてみると、本当にこの場所には何かあったのだということが分かったんですよ。
そう、そこは、平沼駅跡だったわけです。
後に訪れてみれば、近くには写真のように駅の階段の跡のようなものがあるし。
考えてみれば京急に乗ったとき、横浜駅を出た後不思議な資材置き場のような場所があるのです。(要は、そこが駅のホームだったというわけですが)

この発見はわたしにとっては本当に感動でした。
街を歩くことで、今まで知らなかったことを知ることができる。
本の中のこと、東京の話、なんて思っていたことがわたしの住む街でも発見できる。
そんな感動をくれたのがこの平沼駅跡なのです。

この平沼駅跡付近には結構レンガの装飾跡が残っていて、かつての様子が窺えます。
高島町方面に行く道には古い看板建築のお店も何件か残っていますし。
あとは、ガストの入っている比較的新しいビルもレンガ造り風の装飾で、アーチのデザインが施してあって。
今はもう亡き平沼駅の残滓がまだこの近辺に残っている。
それがもう、わたしにとっては感動以外の何ものでもないのでした。

なんでもない場所だけれど、大好きな場所のひとつです。


平沼駅跡(地図
横浜駅または相鉄線平沼橋駅から徒歩
# by 100scenes | 2006-10-12 00:54 | 横浜

秋吉台[19/100]

秋吉台[19/100]_d0012080_22442650.jpg
山口県にある秋吉台は、日本最大のカルスト台地として有名です。
どちらかというと、この地下にある、秋芳洞という鍾乳洞の方が有名なのかもしれないですが…

この秋吉台、訪れる前は、ただの石がいっぱいある場所?理科の授業に出てくるような場所でしょ?くらいにしか思っていませんでした。
でも、実際に行ってみると、息を呑むようなとても印象に残る場所でした。

普段わたしはこの100景でも紹介していて分かるように、自然にある景色よりは、人の手の介在したものに魅力を感じることが多くて。
それは町並みだったり建築物であったりするわけですが。
この秋吉台は、珍しく、本当にそこにある自然が美しいなぁと思えた場所でした。

最初に見て思ったことは、なんだかものすごく大きな墓場みたいだなぁと思いました。
しかも、イメージ的には中国のお墓。
何の根拠もないけどそんな印象を抱きました。

ずっと続く枯れた草の大地に、隆起したいくつもの白い石。
想像を超えたスケールの大きさに胸がたかなりました。

きっとこれが、夏の新緑の季節だったらこんなに印象には残らなかったかもしれないと思います。
枯れた草がすごく退廃的なイメージを与えていて。
そんな感じがすごく好きでした。
見ているだけで、すごく壮大なストーリーが思い浮かんでくるような場所です。
# by 100scenes | 2006-01-25 22:56 | 中国地方